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神戸地方裁判所 昭和34年(行)6号 判決

原告 岡本義雄 外二名

被告 芦屋市長 外一名

主文

被告内海清は、芦屋市に対し金二十五万円を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用中十分の三を被告内海清の負担とし、その余を原告らの連帯負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は、「被告芦屋市長の芦有開発株式会社(以下「芦有開発」という。)に対する芦屋市公会堂(以下「公会堂」という。)の使用許可を取消す。被告芦屋市長は、芦屋開発から金二十一万円を追徴せよ。被告芦屋市長は、芦屋市議会が昭和三十三年七月二十四日議決した同年度特別会計競輪事業費追加予算のうち、市議会議員の旅費(以下「旅費」という。)の執行をしてはならない。被告内海清は、芦屋市に対する金五十八万円の損害を補てんせよ。訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

原告らは、いずれも芦屋市の住民である。

被告芦屋市長は、芦有開発に対し、昭和三十三年三月一日以降引続き、芦屋市の営造物たる公会堂本館の約半分を一ケ月一万五千円の使用料で使用許可してきた。けれども、このように公会堂を一会社に独占排他的に長期継続して使用させることは、地方自治法第十条第二項、当時施行の芦屋市公会堂使用料徴収条例(昭和十五年条例第六号、以下「旧使用条例」という。)第三条、芦屋市財産条例(昭和二十六年条例第十六号)第三条及び現行芦屋市市有財産条例(昭和三十三年条例第十二号)第十五条に違反し、そのうえ、旧使用料条例によれば、使用料は一ケ月三万円(一日千円)であるのに、被告市長は、芦有開発から毎月一万五千円の使用料を徴収しているに過ぎず、この点は、地方自治法第二百二十三条第一項及び旧使用料条例第三条に違反している。

そこで、原告らは、地方自治法第二百四十三条の二第一項により昭和三十三年十月十日芦屋市監査委員(以下「監査委員」という。)に対し被告市長の芦有開発に対する公会堂の使用許可の取消及び使用料不足額の追徴に関する措置を講ずべきことを請求したところ、監査委員は、原告らの主張をおおむね容れて被告市長の芦有開発に対する前記処置を適当でないとしながら、被告市長に対し、ただ、公会堂本来の機能を発揮させるため公会堂管理条例を制定し、かつ芦有開発に対する貸し方もしかるべく処置せよと請求し、被告市長は、監査委員の請求をも無視して、その後も従来通り前記使用料で芦有開発に対する公会堂の貸与を継続した。

また、芦屋市議会が昭和三十三年七月二十四日議決した同年度特別会計競輪事業費追加予算のうち、旅費六十万円と報償費(競輪十周年記念品料)三十万円(以下「報償費」という。)は、昭和三十一年の地方自治法改正のため、従来市議会議員に支給してきた退職慰労金の支給ができないので、これを旅費又は報償費の名目を借りて各議員に三万円ずつ支給しようとするものであり、右支給は、地方自治法第二百四条の二に違反し、そのうえ、旅費の支給は、地方財政法第四条第一項にも違反する。

そこで、原告らは、地方自治法第二百四十三条の二第一項により昭和三十三年十月十日監査委員に対し、前記予算中旅費及び報償費につき、未執行分の執行の禁止及び執行済の分の損害の補てんに関する措置を講ずることを請求したが、監査委員は、旅費は、競輪事業に関する調査視察のため市議会議員十四人が出張したので、それぞれ二万円ずつ計二十八万円を支出した。報償費は、競輪実施十周年記念品料として全額執行され、二十四人の市会議員がそれぞれ一万円ずつ贈呈を受け、その残六万円はなお市議会事務局に保管していると認め、被告市長の処置は議会の議決した予算の執行であつて、その執行行為自体に違法不当な点はなく、また、予算そのものの内容を違法としてその執行禁止等の措置を求める監査請求は許されないとの理由で、これにつき、被告市長に対してなんら措置を請求する必要がない旨を原告らに通知してきた。

けれども、原告らは、監査委員及び被告市長の前記措置にはいずれも不服であり、被告市長の処置はいずれも違法であると考えるから、地方自治法第二百四十三条の二第四項により、被告芦屋市長の芦有開発に対する公会堂使用許可の取消、被告市長が昭和三十三年三月一日以降昭和三十四年二月二十八日までの公会堂使用料不足額二十一万円を芦有開発から追徴すべき旨の命令及び被告市長に対する前記追加予算の旅費のうち未執行分三十二万円につきその執行の禁止並びに芦屋市長たる被告内海清に対する前記追加予算の旅費及び報償費のうち支出済の旅費二十八万円及び報償費三十万円の損害の補てんの裁判を求めるため本訴に及んだと陳述し、

被告市長が公会堂使用許可を被告ら主張の日に取消したことは認めると述べた。

(証拠省略)

被告ら訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として、

原告ら主張の事実のうち、原告らが芦屋市の住民であること、被告市長が原告ら主張の日からその主張の使用料で芦有開発に公会堂本館の約半分の使用を許可してきたこと、原告ら主張のとおり競輪事業費追加予算が議決され、その一部(内訳・旅費)(議員費用弁償六十万円のうち二十四人分四十八万円及び報償費三十万円のうち二十五万円)が支出済で市議会議員らがこれを受領していること及び原告ら主張の各監査請求があり、監査委員が原告ら主張のとおりの理由により措置請求あるいは原告らあて通知をしたことはいずれも認めるが、その余はすべて争う。

公会堂は、大正十一年に建築された日本式の畳敷で狭隘かつ不便な建物であるから、昭和二十七年芦屋市立精道小学校講堂、昭和二十九年芦屋市公民館が各開設された後は、これらの建物が各種会合に利用され、公会堂はほとんど利用者がなく、一時、芦屋税務署仮庁舎、芦屋市立山手幼稚園舎あるいは火災罹災者の仮収容舎として利用されていた前例もある。そこで、芦有開発の願出により、被告芦屋市長は、公会堂本館の半分だけを使用させることとし、旧使用料条例に定める本館全部の昼夜の使用料千円の半額を徴収すべきものと考え、一日当り五百円、月額一万五千円の使用料で右部分の使用を許してきた。しかし、使用料額については右条例を文字どおり解釈して違法とみる向きもあるところから、新たに、芦屋市公会堂使用条例(昭和三十四年条例第九号)が制定公布された。この条例は、昭和三十三年十一月一日以降の公会堂使用に適用されるもので、前掲の場合、第八条別表に使用料日額五百円と明示している。

以上のとおりであるから、公会堂の使用許可及び使用料徴収に関しては、被告市長の処分に違法はない。なお、被告市長は、昭和三十五年六月二十日芦有開発に対する前記使用許可を取消し、同会社はこれを返還した。

原告ら主張の競輪事業費追加予算については、芦屋市議会議員三十人は、全員競輪委員であるので、同人らに競輪経営の先進都市及び競輪場の施設運営を視察研究させ、芦屋市開催の競輪事業の将来に寄与させるため、一人当たり二万円合計六十万円の旅費を右予算に計上し、また、昭和三十三年度は、芦屋市競輪開始十周年にあたるので、これを記念して各種の催しを計画しているほか、前記競輪委員三十人に一人当たり一万円ずつの記念品料を贈呈する目的で前記予算に報償費三十万円を計上した。右追加予算は、芦屋市議会が審議のうえ絶対多数で原案どおり可決決定したもので、予算案の調整、提出、審議及び議決は形式、実質とも全く適法であり、被告市長は、右予算を地方自治法第百三十八条の二に基いて誠実に執行しているのであるから、その執行を禁止され、あるいは、芦屋市長である被告内海清が個人として支出済の予算を補てんしなければならない理由はないと述べた。

(証拠省略)

理由

(原告らの資格)

原告らが芦屋市の住民であること及び原告らが地方自治法第二百四十三条の二第一項によりその主張の各監査の請求をしたことは当事者間に争がない。

(公会堂の使用許可取消の請求)

被告芦屋市長が芦有開発に対し公会堂本館の約半分の使用を許可してきたところ、昭和三十五年六月二十日右使用許可を取消(撤回)したことは当事者間に争がない。

よつて、被告市長の芦有開発に対する公会堂の使用許可の取消を求める原告らの請求は、すでに法律上の利益を欠くに至つたもので、不適法といわなければならない。

(公会堂使用料不足額追微の請求)

昭和三十三年三月一日から昭和三十四年二月二十八日までの間、芦有開発が被告市長の許可により使用料として一ケ月一万五千円の割合による金員を芦屋市に支払い、公会堂本館の約半分を継続して使用していたことは当事者間に争がない。

右期間のうち、昭和三十三年十月末日までは、公会堂の使用料につき旧使用料条例(甲第三号証)が適用されるが、右条例第三条には本館の一日昼夜通しの使用料を千円とする旨が定められ、同条例には本館の一部の使用料についての定めは存しない。成立に争のない甲第一号証、乙第三号証の二、証人吉井清、同林利市の各証言によれば、公会堂本館は、畳数十二畳の部屋が二つあつて、被告市長が初めて芦有開発にその使用を許可した当時、すでに右二室の間に仕切りが設けられていて、各室はそれぞれ一応独立して使用できる状態になつており、その一室を芦有開発に使用させたことが認められる。もとより、地方公共団体が営造物の使用につき使用料を徴収する場合、使用料に関する事項は、あらかじめ条例で明確に定めておくのが適当であるが、本件のように一定の使用料を徴収して使用させるものと定めてある営造物のうち、ある部分を限つてその使用を許す場合は、当該団体の長その他管理者がその使用料を、条例所定額を基準とし諸般の事情を綜合して妥当と認める額と定めることは、地方自治法第二百二十三条第一項等に違反するというべきものでない。しかも、営造物の使用者としては、その使用許可に際し管理者から示された使用料を支払つた以上、その提示された金額が明白に妥当を欠くなどの事情のない限り、その使用の対価を完済したものであつて、さらに右金額を越える使用料を支払うべき義務を負わないと解すべきである。ところで、公会堂本館が前記の状態にある場合、前掲条例に明文のない本館の約半分の使用料は、本館全部の昼夜の使用料を基準に算出し、一ケ月金一万五千円とみるのも合理的根拠を欠くものでない。昭和三十三年十一月一日以降の公会堂本館の二分の一の使用料は、芦屋市公会堂使用条例(乙第一号証)第八条別表において一日昼夜で五百円と定めている。なお、監査委員の被告市長に対する措置請求の理由(この要旨は当事者間に争がない。)及び芦屋市公会堂使用条例第五条などからみて、芦有開発の公会堂使用は、芦屋市の公会堂設置の目的に適合するか甚だ疑わしいところであるけれども、たとえ、右使用が公会堂の設置目的に反するとしても、その他特段の事情の認められない本件では、これをもつて、芦有開発が右使用の対価として、前掲金額を越えて支払うべき根拠とならない。

したがつて、芦有開発は、公会堂本館の約二分の一の使用者として、芦屋市に対し一カ月当たり金一万五千円を超えて使用料を支払うべきいわれはないので、被告市長に対し公会堂本館の一部の使用料として右金額を超える部分の追徴を命ずることを求める原告らの請求は理由がない。

(追加予算の議決及びその執行に関する監査請求)

芦屋市議会が昭和三十三年七月二十四日同年度特別会計競輪事業費追加予算(乙第二号証)を議決したこと、その歳出分には、旅費(議員費用弁償、六十万円)及び報償費(競輪実施十周年記念品料、三十万円)が含まれていることは当事者間に争がない。

右追加予算の執行に関する原告らの地方自治法第二百四十三条の二第一項による監査請求につき、監査委員は、原告らに対する通知において、議会の議決した予算の執行につき予算そのものが不当違法か否かは監査の対象でないとしている。(この点は当事者間に争がない。)けれども、この種事項が地方自治法第十二条第二項、第七十五条、第九十八条第二項、第百九十九条による監査の対象となるか否かはなお検討を要するが、同法第二百四十三条の二により地方公共団体の住民が一定の事項について監査の請求をすることが認められたゆえんは、同条第四項掲記の事項についていえば、裁判所の判断は、提起された事件の解決に必要な限り、地方公共団体の議会の議決の効力にも及ぶけれども、地方自治の本旨に鑑み、裁判所がこれらの事項につき住民の訴により直ちに判断するよりは、まず当該団体の監査委員又は長の措置を待ち、できる限り当該団体内部での自主的な解決を図り、それでもなお十分な解決が得られない場合にはじめて裁判所がこれを判断する趣旨であると解すべきであつて、監査委員は右の目的からみて必要がある限り議会の議決が違法か否かについても判断すべき権限を有し、その議決を違法無効と思料するときは、進んで長その他当該団体の職員の行為が違法不当でないかを判断したうえ、同条第二項に定める措置をとるべきであり、長においても同様同条第三項により必要な措置を講ずる義務があると解するのが相当である。したがつて、地方自治法第二百四十三条の二第一項により前記予算の違法を前提として、その執行につき監査の請求をした原告らは、右執行に関し同条第四項所定の裁判を求める資格がある。

(旅費の執行差止及び損害の補てんに関する請求)

証人吉井清の証言に弁論の全趣旨を綜合すれば、被告ら主張のとおり旅費のうちすでに四十八万円が支出され、その残額十二万円のみが未執行であると認められるので、前記予算中旅費の執行禁止を求める原告らの請求のうち右金額を超える部分はすでに訴の利益を欠き、不適法といわなければならない。

前記予算中旅費は、芦屋市議会議員が競輪事業に関し公務上旅行した場合、これに要した費用を地方自治法第二百三条第三項にいう費用の弁償として、芦屋市議会議員の報酬及び費用弁償等に関する条例(昭和三十一年条例第五条)に基いて芦屋市が支弁する場合にこれを支出するものであつて、これら法律、条例及び予算の趣旨に合致した使途に供される限り、右予算の執行支出は違法ということができない。

原告らは、旅費は昭和三十一年の地方自治法改正のため従来芦屋市においても議会の議員に支払つてきた退職慰労金の支給ができなくなつたため旅費名義を借りてこれを支給しようとの意図のもとに、被告市長が前記予算を議会に提出し、議会がこれを議決したものと主張する。しかし、右追加予算のうち旅費が、例えば、競輪事業に関連ある公務上の旅行をしない市議会議員に対して支給され、あるいは条例所定額を超えて支給されるなど、条例及び予算等の定めるところに反して、すでに執行され、又は、将来執行される虞は、これを認めるに足る証拠はない。したがつて、たとえ、旅費の議決及び執行の動機として原告ら主張のようなものを含んでいるとしても、右執行を不当ということは別として、違法とすることはできず、うち未執行分十二万円の執行差止並びにすでに執行された分につき執行により芦屋市に生じた損害の補てんを求める請求はいずれも理由がない。

(報償費に関する損害補てんの請求)

地方自治法第二百四条の二によつて、地方公共団体の議会の議員あるいは非常勤の委員は、同法第二百三条第一、二及び四項所定の報酬、期末手当及び同条第三項所定の費用弁償のほか、法律又はこれに基く条例に基かずして、当該団体からいかなる給付も受けてはならないもので、芦屋市においては、同条第五項に基いて、第三項所定の費用弁償の額につき前掲芦屋市議会議員の報酬及び費用弁償等に関する条例第五、六条に定められているところ、芦屋市の競輪開始十周年に当たり各市議会議員に一万円ずつ支給する記念品料が報酬、期末手当又は費用弁償のどれにも該当しないことは明らかであり、法律又はこれに基く条例に基かないものであることは、証人原田正二郎の証言及び弁論の全趣旨により明らかである。もつとも地方公共団体においても、例えば記念行事等に際し、関係者に物品を贈呈することがすべて禁止されているわけではないにしても、本件のように議員一人当たり各一万円の現金の供与は、儀礼上許された範囲を超えるもので、地方自治法第二百四条の二において禁止された給付に該当する。市議会議員が全員競輪委員を兼ねている事実も右結論を左右するものでない。

右に述べたとおり、前記追加予算のうち、報償費の支出は違法であるから、この支出を認める予算は地方公共団体の長たる被告内海清が議会に提出すべきでないことはいうまでもないが、たとえ議会がこれを議決した場合でも、長として地方自治法第百七十六条第一項、第百七十七条第一項により再議に付すべきもので、市長がこの予算を議決のとおり執行した場合なお同法第二百四十三条の二にいう「公金の違法な支出」というのを妨げない。同法第百七十六条第五乃至第七項の規定の意味も右の解釈を前提として理解することができる。

ところで、地方自治法第二百四十三条の二第四項の損害の補てんに関する裁判を求める訴は、地方公共団体の職員の違法又は権限を超える行為の相手方など右行為により現に利益を受けている者を被告として提起することができるかどうかはしばらくおくが、地方公共団体の長その他の職員が違法又は権限を超える行為をなし、その行為により当該団体に生じた損害について、損害賠償あるいは不当利得返還などの債務を負う場合、右条項に基きその住民が当該団体の損害回復のため、これに代位して自ら原告となり当該職員個人を被告として、当該団体に対する損害賠償の給付等を請求することができるのであつて、原告らの求める損害補てんの裁判はこれを指すものと解するのが相当である。

およそ、地方公共団体の公金の支出については、地方公共団体の長は、前述及び地方自治法第百三十八条の二、第百四十九条第四号、第二百三十二条などからも明らかなように極めて広範な権限を有し、自己固有の判断と責任において、法律、条例、予算等にしたがい、誠実にその事務を処理すべきものであるが、成立に争のない甲第七号証の一、二、証人今村恵子、同吉井清、同原田正二郎、同鹿一の各証言、原告三名の各本人尋問の結果並びに原告岡本義雄の供述により真正に成立したものと認められる甲第八号証によれば、すでに昭和三十三年七月七日芦屋市議会議員の全員協議会において、同市長たる被告内海清の出席のもとに同市助役吉井清から前記追加予算中報償費の大要について説明があり、その席上市議会議員たる原告らから質問反論のあつたこと、同市長被告内海清は、同月二十四日報償費を含む前記追加予算を議会に提出し、原告らはこれに強く反対したこと、同日頃同市内に配達された朝日、毎日、読売、産経及び神戸各新聞紙上にも反論の掲載されていたこと並びにこれら反対意見はいずれも昭和三十一年になされた地方自治法第二百三条乃至第二百四条の二の改正に関連したものであることが認められる。これら事実が認められる以上、特別の事情が証明されない限り、被告内海清は、市長として当該予算が適法か否か自己の責任において十分検討すべきものであつて、前記のように右予算を議会の再議に付することをはじめてとして、その執行前にとり得る多くの手段が残されているにも拘らず、不注意にも右予算の違法をみすごし、右記手段をとらないで、その執行、支出を命じたものと考えるほかなく、被告内海清は、市長の職務上要求される注意義務を著しく欠くものとして、芦屋市に対し右過失に基く損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。国又は地方公共団体に対する公務員の賠償責任については、その担当する公務の種類及び責任、複雑の度などに応じ個別的に考慮し、一定の公務に従事する職員については、その責任を制限するのを妥当とするので、国家賠償法、予算執行職員等の責任に関する法律や地方自治法第二百四十四条の二などのように、職員の賠償責任を故意又は重大な過失のある場合に限定し、あるいは、その減免に関する事項を定めている場合もある。けれども、右述の趣旨にてらし考えてみても、前記認定の状況のもとになされた芦屋市長たる被告内海清の報償費執行による賠償責任は、これを減免すべき場合にあたらない。

証人吉井清の証言並びに弁論の全趣旨によれば、右予算の報償費三十万円のうち二十五万円はすでに支出され、市議会議員二十五人がこれを受領していることが認められるので、芦屋市は右相当の損害を蒙り、被告内海清は、その賠償として、芦屋市に対し金二十五万円を支払うべき義務がある。したがつて、原告らの損害補てんに関する請求中、報償費のうち二十五万円の補てんを求める部分はこれを認容すべきである。

けれども報償費三十万円のうち右金額を超える部分については、それが市議会議員に交付済であることの立証がなく、成立に争のない甲第二号証並びに弁論の全趣旨によると、それは同市議会事務局に保管されていることが認められるので、いまだ芦屋市に損害を与えたものということができないから、右部分につき原告らの請求は理由がない。

よつて、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 森本正 菅浩行 高山晨)

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